子供に起こる「起立性障害」とは?
2025年05月8日

起立性障害(正式には「起立性調節障害」:Orthostatic Dysregulation:OD)は、主に小学校高学年から高校生の思春期の子どもに多くみられる自律神経の不調による病気です。立ち上がったときや長時間立っているときに、血圧や心拍数の調節がうまくいかずさまざまな状態が現れます。自身の心身状況を的確に表現できない小児に発症することが多く、他者(親や先生、親戚など)から「怠けているだけ」「甘えている」「やる気がない」などと誤解されることもよくある疾患です。周囲の理解が得られず、適切な対応が遅れると状態が長引いたり、重症化してしまう可能性もあります。起立性調節障害は、身体問題だけでなく、学業・進学・人間関係・精神面など多方面に問題を引き起こす可能性があります。
子供の起立性調節障害の初期症状
子供の起立性調節障害(OD)の初期症状は、日常のちょっとした変化や体調不良として現れることが多く、見落とされやすいのが特徴です。主な初期症状は以下の通りです。
1.朝起きるのがつらい・起床困難
以前よりも朝なかなか起きられなくなったり、登校時間になっても起きてこられない。

2.午前中の倦怠感や体調不良
午前中はだるさや疲れやすさが強く、午後になると元気を取り戻すことが多い。
3.立ちくらみ・めまい
立ち上がったときや長時間立っていると、ふらついたり、めまいがする。
4.頭痛や腹痛
特に午前中に頭痛やお腹の不調を訴えることがある。
5.動悸や息切れ
少し動いただけで心臓がドキドキしたり、息切れを感じる。
6.食欲不振
朝食を食べたがらない、食欲が落ちている。
7.顔色が悪い
青白い顔色をしていることがある。
8.乗り物酔いしやすい
以前よりも乗り物酔いを訴えることが増える。
9.学校や登校への消極的な態度
登校を嫌がる、学校に行きたがらない、午前中に不調を訴えて遅刻や欠席が増える。
10.集中力の低下やイライラ
午前中は勉強に集中できず、イライラしたり元気がない。
主な不調
上述の初期の不調が進行すると、以下のような状態が現れます。
- 立ちくらみ、ふらつき、失神
- 頭痛、倦怠感、気分不良
- 長時間立っていられない
- 食欲不振、腹痛
- 午前中に症状が強く、午後や夕方になると軽減する
これらの不調が原因で、学校に遅刻したり、欠席が増えたり、不登校になるケースもあります。
原因
主な原因は、自律神経の乱れです。交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで、血圧や心拍数の調節がうまくいかなくなります。自律神経は自分の意思ではコントロールできず、体のさまざまな機能を自動的に調節しています。交感神経と副交感神経は、自律神経系を構成する2つの神経です。交感神経は、体を活動的にする神経で、朝の目覚め、運動時、緊張・ストレス時など、体を「戦闘モード」「活動モード」にする役割があります。副交感神経は体を休ませ、リラックスさせる神経です。夜間や食事・休息時など、体を「休息モード」にする役割があります
自律神経以外にも思春期のホルモンバランス変化、遺伝的要素、精神的ストレス、体質(貧血、低血圧、脱水、筋力低下)なども関係しているといわれています。学校や友人関係、勉強などのストレスも発症要因となります。
対処法
基本は、生活習慣の解消を図っていきます。規則正しい生活、水分・塩分摂取、適度な運動(散歩など)、急に立ち上がらないなどのセルフケアが基本になります。運動は軽めのウォーキングなど、体調が比較的良い午後に行う程度でも自律神経機能を調整する能力が高まります。また、疾病教育として、本人や家族、学校関係者が病気への理解を深め、無理に朝起こしたり叱ったりせず、見守ることも大切です。ほかにも、環境調整としてストレスの軽減、学校や家庭でのサポート体制づくりが重要です。重症例では医師の判断で薬物療法を行うこともあります。
経過・予後
軽症であれば数ヶ月で解消することが多いですが、重症例や長期不登校となった場合は回復に数年かかることもあります。適切な処置と周囲の理解・サポートがあれば、多くの場合は社会復帰が可能です。
起立性調節障害で予後が悪化するリスクのあること
起立性調節障害(OD)の予後が悪化する主なリスクには、以下のようなものがあります。これらを避けるように対応していくことが大切です。
1.デコンディショニング(身体活動量の低下)
学校に行けなくなり、自宅で過ごす時間が長くなると、運動不足や筋力低下が進みます。特に下肢の筋力が低下すると、起立時の脳血流がさらに悪化し、状態が長引きやすくなります。この「動かない→体力低下→さらに動けなくなる」という悪循環(デコンディショニング)は、予後を悪化させる可能性があります。
2.精神的ストレスや学習性無力感
学校に行けないことや、不調が長引くこと自体が強いストレスとなり、精神的な負担が増します。これにより「どうせ頑張っても無理」といった学習性無力感が生じると、回復意欲が低下し、予後が悪くなりやすいです。
3.不適切な対応や周囲の理解不足
周囲から「怠けている」と誤解されたり、無理に登校や活動を強いられると。ストレスにより状態が悪化することがあります。
4.長期の不登校やひきこもり
不調が重く長期化すると、学校生活や社会復帰が困難になり、予後がさらに悪化します。
その他の要因
栄養バランスの悪化や睡眠リズムの乱れも、不調の長期化や悪化につながります。感受性が高く注意力の強いタイプの子どもは、発症や悪化のリスクが高いとされています。
まとめ
起立性調節障害(OD)は、思春期の子どもによく見られる自律神経の不調で、立ちくらみやめまい、朝起きられないなどの不調が現れます。主な原因は自律神経の乱れですが、ホルモンバランスやストレスも関係します。生活習慣の解消や周囲の理解が大切で、重症例では薬物療法も行われます。放置すると不調が悪化し、不登校につながる可能性もありますが、適切な対応で社会復帰は可能です。運動不足、ストレス、周囲の無理解、長期の不登校は予後を悪化させるリスク要因になるので、注意が必要です。