産後の不調「易疲労感(疲れやすさ)」と「産後うつ」

2025年05月12日

産後ノイローゼ

産後の不調でもっとも頻度が高いのは、「易疲労感(疲れやすさ)」です。産後1年を通しても85~95%と非常に高い有症率が報告されています。
(※1)また、「肩こり」「性欲減退」「皮膚の乾燥」も常に80%前後の有症率でみられます。

精神的な不調としては「マタニティブルーズ」(出産直後~数日間、5~50%が経験)や「産後うつ病」(出産女性の10~20%が発症)も比較的頻度が高いです。今回は、その中でも産後の不調の中でもっとも多い、「易疲労感」と「産後うつ」について説明します。

産後の疲れやすさの原因

疲れ

産後の疲れやすさには、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。まず、出産後は女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが急激に減少し、自律神経のバランスが乱れやすくなります。このホルモンバランスの変化は、体のだるさや疲労感、さらにはめまいや頭痛などの不調を引き起こしやすくします。

また、赤ちゃんの授乳やおむつ替えなどで夜間に何度も起きることが多く、まとまった睡眠がとれなくなります。慢性的な睡眠不足は心身の回復を妨げ、疲れがどんどん蓄積していきます。さらに、授乳によって鉄分やビタミン、タンパク質などの栄養素が不足しやすく、出産時の出血による貧血も加わることで、より一層疲れやすくなります。

加えて、慣れない育児や家事、パートナーや家族との関係性の変化、育児への不安やプレッシャーといった精神的なストレスも産後の疲労感を強める大きな要因です。妊娠や出産で骨盤や筋肉、関節などに負担がかかっているため、体が元の状態に戻るまでには時間がかかり、その間も疲れやすさを感じやすくなります。

産後の疲れやすさへの対処法

このような産後の疲れやすさに対処するためには、まず無理をせず、できるだけ休息を優先することが大切です。家事や育児を完璧にこなそうとせず、赤ちゃんが寝ている間は自分も一緒に休むよう心がけましょう。また、パートナーや家族などの周囲のサポートを積極的に受け入れ、ひとりで抱え込まないことも重要です。

食事面では、鉄分やビタミン、タンパク質などを意識して摂取し、栄養バランスを整えることが疲労回復につながります。さらに、入浴や日光浴、友人や家族との会話、軽いストレッチなど、自分に合ったリラックス法を取り入れることで、心身ともにリフレッシュできます。体の回復を促すためには、無理のない範囲で軽いエクササイズやストレッチを行うのも効果的です。

もしも強い疲労感や気分の落ち込みが2週間以上続く場合には、産後うつなどの可能性も考えられるため、早めに医療機関や相談窓口に相談することをおすすめします。産後の疲れやすさは誰にでも起こりうる自然な現象です。無理をせず、周囲の力を借りながら、少しずつ自分のペースで心身を回復させていくことが大切です。

産後うつとは

産後うつは、出産後の女性にみられるうつ病の一種で、心身の不調や情緒の不安定、日常生活への支障が現れる状態です。一般的には出産後数週間から数カ月以内に発症し、症状が2週間以上続く場合や、日常生活や育児が困難になる場合は、専門的な対応が必要とされます。

主な症状

産後うつの不調は多岐にわたります。代表的なものとして、強い倦怠感や気分の落ち込み、不安感、イライラ、涙もろさ、集中力の低下、睡眠障害(不眠や過眠)、食欲の変化(食欲不振や過食)、自分や赤ちゃんの世話ができない、無価値感や絶望感、家族や周囲から孤立したい気持ちなどが挙げられます。重症の場合、自傷や赤ちゃんを傷つけたいという思いが生じることもあり、早急な専門的支援が必要です。

原因

産後うつの原因は一つではなく、複数の要因が重なり合って発症します。主な要因として、出産後のエストロゲンやプロゲステロンなど女性ホルモンの急激な減少、睡眠不足や慢性的な疲労、育児や生活環境の大きな変化、家族やパートナーのサポート不足、経済的・社会的なストレス、過去のうつ病経験などが挙げられます。また、育児に対する不安や自信のなさも、発症の引き金となることがあります。

周囲のサポートと注意点

産後うつは、本人の努力や気の持ちようだけで改善するものではありません。家族や周囲が母親を孤立させず、理解と協力をもって支えることが回復の大きな助けとなります。また、不調が長引いたり、日常生活や育児に深刻な支障が出ている場合は、早めに専門医や相談窓口に相談することが大切です。

産後うつが発症した場合、家族や友人にどのように相談すればいい?

産後うつを感じたときは、まず一人で抱え込まず、家族や友人に自分の気持ちや不安を率直に伝えることが大切です。「最近とてもつらい」「気分が落ち込む」「何もやる気が起きない」といった、具体的な状態や気持ちを言葉にして話してみましょう。

相談相手には、自分の感情を否定せず、共感してくれる人や秘密を守ってくれる人を選ぶと安心です。決して「自分だけが頑張れていない」と責めたり、相談することを恥ずかしいと思う必要はありません。産後うつは誰にでも起こりうる心の病気であり、周囲のサポートを得ることは回復への大切な一歩です。

また、家族や友人に相談する際は、「話を聞いてほしい」「少しだけ家事や育児を手伝ってほしい」など、具体的にお願いするのも効果的です。つらい気持ちを共有することで孤独感が和らぎ、サポートを受けやすくなります。

もし身近な人に相談しづらい場合は、保健センターや子育て世代包括支援センター、助産師、専門の相談窓口(よりそいホットライン、いのちの電話など)を利用することもできます。まずは「つらい」「助けてほしい」と伝えることから始めてみてください。必要なら、専門家への受診や相談も早めに検討しましょう。

まとめ

産後に最も多い不調は「易疲労感(疲れやすさ)」です。ホルモンバランスの変化、睡眠不足、栄養不足、精神的ストレスなどが原因で起こります。対処法としては休息、周囲のサポート、栄養バランスの取れた食事、リラックス法が有効です。強い疲労感や気分の落ち込みが2週間以上続く場合は「産後うつ」の可能性も考えられます。産後うつは、ホルモンバランスの変化、疲労、育児や生活環境の変化などが原因で、心身の不調や情緒不安定、日常生活への支障が現れる状態です。一人で抱え込まず、家族や友人に相談し、必要であれば専門家の受診や相談を検討することが大切です。

参考)※1.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjam/35/1/35_JJAM-2020-0007/_pdf

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